南六郷ブルース

Twitterで書ききれないことを補完するためのブログ。たぶん、読書感想文が中心。

カオスチャイルドの感想とか。

カオスチャイルドのトゥルーまで終えました。 ので極力ネタバレを排除しつつ感想的なものを綴っていきたいと思います。 極力排除していくつもりですが、少々はバレしてしまうかもしれませんのでそのへんはご容赦を。


 カオスヘッド、シュタインズゲート、ロボティクスノーツと科学アドベンチャーシリーズはすべてやった人間の感想になります。雑感とでも言うべきか。まぁそのへんは言葉遊びになってしまうのでやめましょう。


科学アドベンチャーシリーズは時間軸さえ異なれど、全作品が同じ世界での出来事ということになっていますが、それぞれの接点は薄いです。


しかし本作カオスチャイルドはタイトルの類似性からわかるとおり、カオスヘッドの直接的な後継作といえるほど濃厚な接点があります。 同じ渋谷を舞台にしており、超常的な猟奇殺人が連続し、超誇大妄想狂<ギガロマニアックス>と呼ばれる能力者がキーとなる点でも同じです。


 千代丸が「カオスヘッド2にしてもよかったが、それでは新規が取り込みづらいのでいまのタイトルになった」みたいなことをどっかで言っていたような記憶がありますね。


 前置きはこのくらいにして、ずばり評価を言ってしまえば「ロボティクスノーツよりはいくらかマシだけどシュタインズゲートには遠く及ばずカオスヘッドにも届いていない」って感じですね。ロボティクスノーツとの差は世界観の好き嫌いなので出来の良し悪しではないです。


 私の評価がさほど高くない理由を、誤解を恐れずに言うなれば「カオスチャイルドはシリーズの他の作品よりも内向きである」ということになります。


 これまでのシリーズの各作品では、とにかく外に敵がいたわけですよ。現れた強敵や訪れる理不尽な事件に、主人公が持てる力でもって立ち向かうというスタンスがあったはずなんです。 カオスチャイルドにおいてはそれが希薄なんです。もちろん外から事件が振りかかってくるのですが、真相に向かえば向かうほど、それらが主人公の内へ内へと帰結していくのがわかります。


 それが悪いわけじゃないんですよ。そのスタンスで見事に物語を描き切っていれば快哉を叫ぶところなのですが、残念ながらそのレベルには達していない、いわば未成熟な物語なんですよね、カオスチャイルドは。


 カオスヘッドにおいてひとつのギミック(あるいはフレーバー)でしかなかった「妄想」を物語の中核に据えてみようという試みがあったんじゃないかなぁ。その発想は良かったんだけど、やっぱりもうひとつふたつひねりがないと物足りない。言うなればニュータイプの新たな定義を生み出そうと試行錯誤した結果あの程度の物語しか生み出せなかったガンダムXみたいな感じなんですよね。


 カオスヘッドが好きな人ならやってみる価値はあるんだけども、ただシュタインズゲートが好きなだけで同じ世界観の作品だからやってみようって思ってる人は避けるのが無難かと。 はー、シュタインズゲート・ゼロはどうなるものか。

冬を待つ城読了。

安部龍太郎著『冬を待つ城』を読了した。
以下、ネタバレを含めつつ感想みたいなものを綴りたい。


この本の感想やレビューを記す時、多くの人が書き出しでこう書いているので私もそれにのっとろうと思う。


「『九戸政実』という名前を知っている人はまずいないであろう。」と。


戦国時代の人なので、信長の野望とかで知っている人はいるかもしれない。炎立つの著者である高橋克彦に九戸政実を題材にした著作があるのでそれを読んだ人もいるであろう。あるいは奥州史に格別の造詣がある人は何をした人物なのかまで理解しているであろうけども、そう多くはいないんじゃぁないかな。


いったい何者なのかを簡単に説明すると、小田原征伐を終えた豊臣秀吉が天下統一の仕上げとして乗り出した奥州仕置に反発して乱を起こした人ということになる。


九戸勢3,000に対し奥州仕置軍60,000というのぼうの城も真っ青な無茶苦茶な戦力差である。 いかにして九戸政実はこの大軍を相手に「勝利」を手に入れるのか?といいうのが本著の見どころである。 背景にある奥州(蝦夷)の複雑な歴史や、朝鮮出兵まで睨んだ政治的な策謀等、単純に合戦を魅せるだけでないのも面白いところである。


余談だが寡兵と大軍の戦いといえばまず桶狭間や厳島を思い浮かべるが、それ以上の戦力差となると日本史なら千早城の戦い、中国史なら淝水の戦いになるだろうか。足止めしただけの千早城に対し、淝水の戦いは7万で100万の軍に勝ってるからおそろしい。

陽炎の旗読了。

北方謙三著『陽炎の旗』を読了した。
以下、ネタバレを含めつつ感想みたいなものを綴りたい。


建前上、足利頼冬が主人公なのだが、視点はあちこちにうつるので群像劇といえるだろう。


南北朝時代末期、足利義満治世の時代ということで個人的にはすこぶる燃える舞台なのだが、繰り広げられるのは史実に基づいたものではなく、基本的にフィクション。


なにせ主人公の頼冬がまず架空の人だし、それを囲む月王丸に竜王丸に大野武峰と主要人物はだいたい架空。メイン級で架空じゃないのは今川仲秋くらい しかし、だ。 史実という制約から解き放たれたことによって、北方謙三が訴えたい歴史観や国家のあり方を力強く描写することに成功しているといえる。


合戦描写の大部分を占める海戦の描写に関しては確かに迫力があるのだが、前作『武王の門』ですでに経験済みだったのでそこまで目新しさもなかったのも事実。


そもそも月王丸の水軍が強すぎる。なにをやっても連戦連勝。いやいや、最近の仮面ライダーのほうがもう少し苦戦してるよってくらいの無敵っぷりだ。お父さんの懐良親王だってもうちょっと苦戦してたよって言いたくなるレベル。


あと何故か異様に不遇なのが天下人足利義満。 英邁そうなところを端々で見せてはいるんだけど、前述の通り敵対する月王丸さんが無敵すぎるので合戦ではひたすら負け続けるだけ。海の上で負けて陸の上で負けてなんにもいいところなし。最終的に政治で負けをなかったことにするまで持っていくのはさすが室町時代の絶頂期を築いただけはあると思わせるが、もう少しいいところあってもいいんじゃないかな?


 結末もなんだかうーんと思わずにいられない。 竜王丸はあれでいいんだろうけど、頼冬の決断はそれでいいの?って感じ。 面白かったからこそ不満があるといえばそういうことなんだろうけどもさ。


 いろいろ言ったけども充分読むに値する著作なのでご興味があれば。 というか北方謙三の南北朝時代モノにハズレはないんだってば。