南六郷ブルース

Twitterで書ききれないことを補完するためのブログ。たぶん、読書感想文が中心。

裏切り涼山読了。

中路啓太著『裏切り涼山』を読了した。
以下、ネタバレを含めつつ感想みたいなものを綴りたい。


既にお気に入り感さえ出てきた中路啓太氏の著作である。どうやら二作目らしい。


本作は三木合戦、つまり世に名高い三木の干殺しを舞台にした物語です。

しかし、どれぐらい世に名高いだろうかね。戦国時代を少しでもかじった方なら三木の干殺しと言われてすぐさま鳥取の飢え殺しを横に並べるでしょうが、やはり一般的には三木の干殺しと言われてもポカーンなのでしょうかね。


三木合戦、つまること三木城攻防戦をざっくりいえば、毛利家との対決を決めた織田家が、その橋頭堡として中国への玄関口である播磨国攻略を命じられた秀吉が戦わずしてなんとか降そうと調略を頑張ったんだけど土壇場で別所氏が裏切って合戦に至り、その本拠地にそびえる三木城をなんやかんやで2年もかかって攻め落とした、というやつです。うん、ざっくりしてない!


上述のなんやかんやの部分を担ったのが表題にも名前のある僧侶・涼山です。といっても涼山は格別な高僧でもなければ徳の高い坊主ではありません。元は浅井家につかえていた士分ではあったのだけれども、浅井家滅亡の寸前になって主家を裏切り、行き場をなくして坊主に身をやつしているというあまり褒められた人物ではない。


そんな涼山をなぜか高く買っていたのが我らが今孔明、半兵衛重治に他ならない。半兵衛は秀吉に進言し、膠着状態を打破すべく、涼山を開城工作のため三木城へ潜入させようという。最初は渋った涼山ではあるが、城中に浅井家滅亡の際に死に別れたと思っていた娘がいると聞き承諾、開城工作のために尼子十勇士が1人である寺本生死ノ介とともに三木城へと赴くのであった。


派手な合戦描写は少ないです。三木城という小さな世界で様々な思惑をもった人間が蠢く様がメインになりますね。兵糧攻めであえぐ城中でいかにして涼山は開城にこぎつけんとするのか?といったところです。

曽我兄弟の密命 天皇の刺客読了。

高橋直樹著『曽我兄弟の密命 天皇の刺客』を読了した。
以下、ネタバレを含めつつ感想みたいなものを綴りたい。


霊鬼頼朝が掘り出し物だったので、同じ著者の本を買って読んでみたやつ。

いや実はこれの前に『異形武夫』という南北線時代を舞台にした連作短編を読んでいたんだけど、うまいこと感想がひねりだせなかったのでブログは更新されなかったわけですよ。作品は面白かったけどね。


本著は単行本刊行時は『天皇の刺客』という題名だったのだが、文庫化に際して『曽我兄弟の密命』が頭にくっついた模様。おかげで題名だけで中身がわかる素敵仕様に生まれ変わってますね。


なのだけれども、さあ曽我兄弟と言われて「ああ、あいつらね」と思い浮かぶ人が現代にどれだけいるだろうか…。


日本三大仇討のひとつ「曽我兄弟の仇討」で有名な曽我兄弟なわけですが、そもそも日本三大仇討を3つすらすら出てくる人がまずいないんじゃないかと。おそらく忠臣蔵が出てきて終わりが普通だと思います。鍵屋の辻の決闘と曽我兄弟の仇討を無理矢理ねじ込んで「日本三大仇討」に仕立てあげた感満載です。もう忠臣蔵を「日本最高仇討」にでもすればいいじゃないかと。


話がだいぶそれたので軌道修正。

源平争乱の中で家が平氏とともに滅び、曽我家の養子となった十郎と五郎の兄弟。なんとか身を立てようと兄の十郎は弟の五郎の元服式を壮大にとりおこなうことに成功し、幕府への士官の道が開けたかに見えた。しかしとある事件により、もはや兄弟2人には鎌倉の世で身を立てるすべがないことを知る。打ちひしがれた兄弟はこの世で唯一身を立てる方法を見出すことになる。それは鎌倉殿”頼朝”を討つことだった!


といった具合。史実では父の仇である工藤祐経を討つことが「曽我兄弟の仇討」になるわけですが、本当のターゲットは頼朝だった!というのが本書の見どころ。兄弟と頼朝の因縁とは?なにゆえ兄弟は「天皇の刺客」となったのか?というのが描かれます。史料の隙間を縫うような解釈と、ラストの討ち入りシーンもなかなかに読み応えがあり、著者の力量の高さがうかがわれます。


先に紹介した霊鬼頼朝の後に書かれていることもあって、そちらを読んでから読むと本著の頼朝も厚みを増すかもしれないですね。なんにせよまるで存じあげなかった作者の本がここまで面白いとなると、やはり私なんぞ読書人を名乗るのも憚れるのだなぁと痛感する次第です。いえ読書人なんて名乗ったことないんですけど……。

霊鬼頼朝読了。

高橋直樹著『霊鬼頼朝』を読了した。
以下、ネタバレを含めつつ感想みたいなものを綴りたい。


おなじみの(?)ブッコフの100円コーナーで見つけたシリーズ。
タイトルの通り頼朝さんの本です。源さんちの頼朝さんね。
ある年代以上の人が「ああ、あの人ね」と思い浮かべた肖像画が実は別人だった人ナンバーワンの地位を不動のモノにしているあの人です。


っても頼朝が主人公の本ではないんです。頼朝にまつわる人たちのあれやこれやを描いた連作短編集といったところ。しかし4つの短編は密接な繋がりがあるので全部読んでひとつにまとまっておいしいですな感じ。


実朝暗殺後の貞暁の動向を描いた『無明の将軍』
壇ノ浦から義経都落ちまでを平時忠を中心にして描いた『平氏の封印』
頼朝の奥州征伐を目前にして揺れる奥州藤原氏を描いた『奥羽の風塵』
頼家謀殺から実朝将軍就任、そして暗殺までを描いた『源太の産衣』


以上4編。
どれもなかなかの読み応え。鎌倉初期の人たちが、存命中の頼朝はもちろんとして、頼朝亡きあとも「右幕下」という巨大な影にいかに影響されていたか。出番は少ないけどやはり物語の柱には頼朝がしかと存在しているのが良い。


頼朝ー頼家ー実朝の将軍3代のうつりかわり。比企氏や和田氏の族滅など、鎌倉初期の出来事をあまり知らない人も読むことで新しい知識も増えて一石二鳥。物語としても面白いのだから文句なし。


いままでまったく知らなかった作家さんだったので大きな収穫があったと言える。しかも中世から南北朝時代にかけての著作が結構あるのでどれも読んでみたくなる。