南六郷ブルース

Twitterで書ききれないことを補完するためのブログ。たぶん、読書感想文が中心。

砂の王メイセイオペラ読了。

佐藤次郎著『砂の王メイセイオペラ』を読了した。
以下、ネタバレを含めつつ感想みたいなものを綴りたい。


久々に更新してみせたと思ったら、歴史小説の感想でなくて競馬ドキュメントの感想ですね。
ウマ娘の発表以後、僕の競馬熱が燃え上がった結果、手にした一冊です。


競馬を知らない方に競馬を説明するのは存外ムズカシイです。
「ウマを走らせて競わせるんでしょ?土日にテレビでやってるやつ」
そうです。それであってますが、それだけでは完全ではないのです。
そしてそのそれだけの方に含まれていないのがメイセイオペラなんです。


あなたが土日にテレビで見かけるのは日本中央競馬会(JRA)が主催する、いわゆる「中央競馬」と呼ばれるものなんです。
そして本著の主役である競走馬・メイセイオペラは中央競馬の馬ではないんです。
主に地方自治体が主催・運営する公営競馬、いわゆる「地方競馬」の競走馬なんです。


本著はそんな「地方競馬」の岩手競馬に属していたメイセイオペラと、それを取り巻く人達の人間模様を描いたドキュメンタリーです。


経済動物であるサラブレッドを扱う競馬サークルの人たちは、なるほど冷徹な判断を下さざるをえないことが多いでしょう。しかしメイセイオペラのオーナーである小野寺氏はそうではない。どちらかといえば趣味の範疇で競走馬のオーナーをやっているような方で、そんな人柄に惹かれて集まってきた人たちがおりなすとてもあたたかで、まるで小説のような実話を本著は軽妙な筆致で綴っています。


冷徹なホースマンが間違っているわけではないし、浪花節ともいえる小野寺氏が正しいわけでもない。それはとてもムズカシイ問題なのでここで答えをだそうとするのはやめておくけども、あたたかさの結晶ともいえるメイセイオペラの物語をぜひ堪能していただきたい。


いかにしてメイセイオペラは生まれてきたか、いかにして育ち、デビューし、そして勝利をしたか。本著を手にした人は最後まで一気に読み進めたくなる思いを抑えることに苦労することであろう。


余談だが本著は2000年8月に出版されたようで、この時にはメイセイオペラは引退していないのである。よってメイセイオペラの引退やその後の物語はお預けとなってしまうのが残念だ。いつの日かその部分を補完した完全版が出ないかと願わずにいられない。

劇場版ミルキィホームズ「逆襲のミルキィホームズ」気付いたことまとめ

ネタバレ全開で逆襲のミルキィホームズで気付いたことを感想など交えつつ書き綴ります。考察というほどではないですし、覚書みたいなものになるかな?


・シャロとネロのトイズが成長しすぎ問題

シャロのトイズはサイキックですが、動かせるものはごく軽いものという話だったはず。現に1幕1話ではそんなに重いものは動かしていない。しかし4クールもアニメをやったせいか、劇場版では貯水タンクを軽々と浮かし、あまつさえ天井をえぐって巨石にしてぶつけようというハイパワー。1幕最終話で見せた覚醒シャロを上回る成長ぶりだ。


そしてネロ。ネロのトイズはダイレクトハックで、機械操作とメタルケーブルを介したハッキングということになる。通電していることがトイズの効果させることの前提のはずだが、劇場版のラストではラットの投げたお手製爆弾(どうみても通電しない)を破壊→再構成という錬金術士のような芸当を。破壊からの再構成なら1幕最終話でも見せていたが、あれはいちおう機械だったからなぁ。


この2人に対して控え目なのがコーデリアさんとエリー。もともと普通に使えば最強なエリーに対し、コーデリアさんはもう少し成長してくれてもいいんじゃないかな…。


・敗者復活の宝石は4度使われた?

かまぼことモリアーティ教授が使ったのは初回でもわかるけど、こころちゃんが黄金仮面神になるシーンでもしっかり右目にハマっているので使用しているのは間違いない。あれだけIQバク上げとかこころちゃん負け込みすぎだよなぁと。


で、4度目がどこかといえば冒頭でアルセーヌルと戦おうとする前にシャロの胸元で敗者復活の宝石が光ってるのよね。もちろん右目にはめていないので使ったとはいえないのだけど、あれがトイズのブーストになっているのではないか?


・明智小衣、その恐るべき戦闘能力と鬼謀

劇場版の裏主人公とでもいうべき大活躍をみせるこころちゃん。最大の見せ場はもちろんフェルダー戦だ。モリアーティ教授のせいでぐっちゃぐちゃになってしまった時空を、むしろ逆手にとって武器としてフェルダーを追い詰める様は圧巻である。冒頭で黄金仮面神したこころちゃんに頭突きを食らわすフェルダーはここでしっかり拝めるので気付いてなかった人は確認しよう。


さらに1幕第1話での落雷、2幕最終話でのミルキィホームズへのたらい落としもどうやらこの時にこころちゃんが歴史介入した結果であると匂わせるシーンまである。フェルダーと戦いつつも過去への介入まで考えるとは、その鬼謀恐るべしである。1幕1話の落雷に関しては後に幻惑のトイズの実体化に成功したアルセーヌがその力の片鱗を見せた結果と思われていたが、こんかいの劇場版で新説が提示されたことになるな。


・エドガー・モランの悲劇

我らが宿願を果たす覚悟をもってして素手でうんこまで掴んでみせたモランさんだが、最終的にフェザーズに瞬殺というあっけない最後。劇場版でしか彼を知らない人はなんかぴゅんぴゅん飛ばすえらそーなおっさんにしか思えないであろうな…。OVAであるオルタナティブではなかなか手ごわい黒幕という立場だったんだけども、防御全振りみたいなトイズを使うアリスとの相性が悪すぎたよなぁ。そのくせカズミとの主役チートとでもいうべき合体攻撃まで出されては…。相手がG4とかだったらもう少し善戦出来たはずなんだよなぁ。


とりあえずこんなところか。あと気になってるのはドアラー家で推理を疲労するときなぜコーデリアさんが気だるげだったのかとか、冒頭の喉元で右手を水平に動かすシャロの動きの元ネタとかかなぁ。間違いなく良作だし、そこそこ興収も良さそうなので是非劇場版第二弾がほしい。復活のGenius4とかでお願いします!

武神 八幡太郎義家読了。

桜田晋也著『武神 八幡太郎義家』を読了した。
以下、ネタバレを含めつつ感想みたいなものを綴りたい。


ブッコフの100円コーナーで見つけたシリーズ。奥付によれば初版は1997年。割りと昔だ。


八幡太郎義家さんのお話です。知名度は…イマイチかな?

『いい国作れず鎌倉幕府』でお馴染みの源頼朝・義経兄弟の四代くらい前のご先祖様ですね。「驍勇絶倫にして騎射神のごとし」と讃えられるほどの武勇の持ち主で、武家の間では伝説的にして神格化されているほどの人物。


誕生から前九年合戦までをえがいた前半と、父頼義の死去により家督をついでから後三年合戦をえがいた後半。陸奥話記が主なネタもとなんでしょうが、史料としては上質ではないものを鵜呑みにして書いていますが、物語としてはこれでありかと。リアリティを突き詰めていけばなんていうか、いろいろ残酷なものになっちゃいますし……。


作者は八幡太郎義家のことを書きたかったのはもちろん、摂関家と武家棟梁である河内源氏の溝をえがきつつも、それを現代にも通じる政治と軍事力の関係、ひいては浮薄な世論を問題として提起したかったのではと思われる。しっかしそれがどうにも説教くさくて鼻につく。純粋に物語を楽しみたい人には邪魔くさいかもしれない。


余談だが中公新書から出ている元木泰雄著『河内源氏』をこれのあとにでも読めば目からうろことなるかもしれない。『武家棟梁論の虚構』『八幡太郎の光と影』など、現実的な目線による河内源氏論は本作で描かれている英雄的な義家とはまた違うものですから。


しかしそれでも八幡太郎義家の存在が日本史に燦然と輝くのは間違いないことで、義家のことを知らない人は本作を手にとって見るのもいいかもしれない。