南六郷ブルース

Twitterで書ききれないことを補完するためのブログ。たぶん、読書感想文が中心。

宇喜多の捨て嫁読了

木下 昌輝著『宇喜多の捨て嫁』を読了した。
以下、ネタバレを含めつつ感想みたいなものを綴りたい。


高校生直木賞なる聞きなれない賞に選ばれたらしい本作。
高校生直木賞に関しては各自で調べていただきたい。


表題作を含む6編の短編からなる本作だが、全て宇喜多家にまつわる物語である、それぞれが密接にリンクしているので長編と捉えることも不可能ではない。


どの短編にも派手な合戦描写はありません。胸のすくような英雄譚でもありません。権謀術数蠢く戦国乱世をただ必死で生きる人間たちの有り様を生々しく活写した作品です。


読後の爽快感とか、そういうのはホント皆無なんですけど、これこそ歴史小説のあるべき姿なんだと思わせてくれるものですし、短編集でとっつきやすいので歴史小説が得手でない人にこそ読んでほしい一冊でありますね。

失楽園の武者―小説・大内義隆読了。

古川 薫著『失楽園の武者―小説・大内義隆 』を読了した。
以下、ネタバレを含めつつ感想みたいなものを綴りたい。


さぼってたわけじゃないんですが、どんだけぶりの更新ですかね。
本は読んでいたんですが、資料系のものが多かったので感想を綴るようなものじゃなかったりだったんですよ。


で、久々に感想を綴ることになったのが本作。
大内氏といえば西国の雄なんですが、ぶっちゃけ私もよく知らないんですよね。
平安鎌倉のころから続く一族で、大内義弘が南北朝時代に最盛期を築いて、タイトルにある大内義隆の代で事実上の滅亡をするわけです。


どちらかと言えば大内氏を滅ぼした陶晴賢、そしてその陶を滅ぼして西国に覇を唱えた毛利元就のが有名ですね。戦国時代の最初のほうでフェードアウトしていく地味な大名って感じ。


月山富田城の戦いに破れ敗走するシーンから始まるわけですが、その敗戦を受けて義隆は政治への関心を急速に失い、文治派を重用し武断派の不満が募っていくことに…。


そんな政治や軍事に飽いた主君義隆に側近として仕え、疎んじられながらも職務を真っ当せんとするもうひとりの主人公が冷泉隆豊。「蟹」などと呼ばれても嫌な顔ひとつぜずいじらしいほどに献身を尽くす隆豊の姿に愛くるしささえおぼえます。もうぶっちゃけ陶じゃなくてお前が義隆斬ってもいいんじゃねーかって思えてくるほど。


この作品のすごいところは、溜飲が下がるとかそういうカタルシスなシーンがまるでないところです。史実をもとにしているので、終盤で覚醒した義隆が陶の大軍勢に反撃を!なんてことはありません。義隆は最後までダメな義隆のままです。


強いて言えばそんなダメな義隆に最期まで仕えた隆豊の生き様こそが見どころでしょうかね。大きな合戦や見せ場は確かにないかもですが、それでもしっかり最後まで読ませる作品に仕上がってますし、作者の力量の高さを伺えます。『滅びの美学』といえば安っぽいかもですが、滅びゆく者たちのその生き様を垣間見ることが出来る良作かと。ただし読後感はたいへんせつなくてやるせないです…。

一刀斎夢録読了。

浅田次郎著『一刀斎夢録』を読了した。
以下、ネタバレを含めつつ感想みたいなものを綴りたい。


浅田次郎の新選組三部作の掉尾を飾るらしい本作。
壬生義士伝-輪違屋糸里-一刀斎夢録で新選組三部作だとか。そんな括りがあるなんて知らなかったもので、背表紙の宣伝文句を見てへーと思った次第。


輪違屋糸里は未読だが、壬生義士伝は読んだことがある。あるというか、とても好きな小説のひとつだ。最後の方はもう文章をおいながら目がうるうるとしてきてたまらないんだよね、あれ。そんなわけでブッコフでこれを見つけてしまった以上買わずにはいられなかったんですよ。


明治の世が終わり、大正の世があけて間もない頃、近衛師団梶原稔中尉はとある縁で一刀斎と呼ばれる人物と出会うことになる。この一刀斎こそ幕末の世に新選組副長助勤として動乱の京で剣名をはせた斎藤一その人であった。梶原を一角の剣士と見込んだ斎藤一は、彼を剣の深奥へ導くために己が見知った全てを語り聞かせる。


一人称と三人称が交互に入れ替わる構成で描かれた本作。壬生義士伝に似た構成だが、あちらは多くの語り部が出てきたのに大してこちらは『一刀斎夢録』の名に恥じぬ斎藤一のひとり語り状態です。


まー、良いんだけどね。壬生義士伝に出てきたあのキャラクターな斎藤一が語り部なんですから、面白いのに違いはない。しかし壬生義士伝では吉村貫一郎の物語という筋が本作にはないんだよねぇ。あくまで一刀斎がひたすら語るだけ。いや一応聞き手になる梶原にも背景みたいなものがあるんだけど、フレーバー程度というか、大きな物語ではないのよね。


それでも浅田次郎の幕末感を堪能できるし、壬生義士伝を好きなら買って損はないかなぁ。そのうち輪違屋糸里も読んでみよう。