曽我兄弟の密命 天皇の刺客読了。
高橋直樹著『曽我兄弟の密命 天皇の刺客』を読了した。
以下、ネタバレを含めつつ感想みたいなものを綴りたい。
霊鬼頼朝が掘り出し物だったので、同じ著者の本を買って読んでみたやつ。
いや実はこれの前に『異形武夫』という南北線時代を舞台にした連作短編を読んでいたんだけど、うまいこと感想がひねりだせなかったのでブログは更新されなかったわけですよ。作品は面白かったけどね。
本著は単行本刊行時は『天皇の刺客』という題名だったのだが、文庫化に際して『曽我兄弟の密命』が頭にくっついた模様。おかげで題名だけで中身がわかる素敵仕様に生まれ変わってますね。
なのだけれども、さあ曽我兄弟と言われて「ああ、あいつらね」と思い浮かぶ人が現代にどれだけいるだろうか…。
日本三大仇討のひとつ「曽我兄弟の仇討」で有名な曽我兄弟なわけですが、そもそも日本三大仇討を3つすらすら出てくる人がまずいないんじゃないかと。おそらく忠臣蔵が出てきて終わりが普通だと思います。鍵屋の辻の決闘と曽我兄弟の仇討を無理矢理ねじ込んで「日本三大仇討」に仕立てあげた感満載です。もう忠臣蔵を「日本最高仇討」にでもすればいいじゃないかと。
話がだいぶそれたので軌道修正。
源平争乱の中で家が平氏とともに滅び、曽我家の養子となった十郎と五郎の兄弟。なんとか身を立てようと兄の十郎は弟の五郎の元服式を壮大にとりおこなうことに成功し、幕府への士官の道が開けたかに見えた。しかしとある事件により、もはや兄弟2人には鎌倉の世で身を立てるすべがないことを知る。打ちひしがれた兄弟はこの世で唯一身を立てる方法を見出すことになる。それは鎌倉殿”頼朝”を討つことだった!
といった具合。史実では父の仇である工藤祐経を討つことが「曽我兄弟の仇討」になるわけですが、本当のターゲットは頼朝だった!というのが本書の見どころ。兄弟と頼朝の因縁とは?なにゆえ兄弟は「天皇の刺客」となったのか?というのが描かれます。史料の隙間を縫うような解釈と、ラストの討ち入りシーンもなかなかに読み応えがあり、著者の力量の高さがうかがわれます。
先に紹介した霊鬼頼朝の後に書かれていることもあって、そちらを読んでから読むと本著の頼朝も厚みを増すかもしれないですね。なんにせよまるで存じあげなかった作者の本がここまで面白いとなると、やはり私なんぞ読書人を名乗るのも憚れるのだなぁと痛感する次第です。いえ読書人なんて名乗ったことないんですけど……。